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菊間晴子「「見せ消ち」の生を歩む 書き直しの作家としての大江健三郎」

2024年515



4月10日発売の『ゲンロン16』(ゲンロン)に、拙論が掲載されました。

「「見せ消ち」の生を歩む 書き直しの作家としての大江健三郎」というタイトルです。

冒頭部分では、大江健三郎文庫所蔵の自筆原稿に見られる修正跡を分析しています。

その大きな特徴は、「元の記述が判読できるようなかたちでーー当該部を線で囲み、そこに丹念に斜線を引いていく、あるいは色鉛筆で薄く塗りつぶす、といった方法でーー訂正部分および削除部分を示している」(133頁) こと。

まるで、修正前の記述をあえて残す「見せ消ち」のような手法を用いて、原稿の書き直しがなされています。

このような「見せ消ち」式の書き直しこそ、大江健三郎の作家性を象徴するものであると考えられるのではないか、というのが、本論考の出発点です。


『文学ノート 付=15篇』(1974)を読むと、彼が書き直しのプロセスを、単に作品をブラッシュアップするための手法としてではなく、小説家にとっての、そしてそのテクストを読む読者にとっての自己変容の契機として捉えていたことがわかります。

本論考では、そのような創作過程と響き合うようにして彼の小説世界に示された、「見せ消ち」式の書き直し=生き直しのモデル、そしてそのアクチュアリティについて考察しました。


彼の「最後の小説」となった『晩年様式集(イン・レイト・スタイル)』(2013)の自筆原稿画像も合わせて掲載されていますので、ぜひご覧いただければ嬉しいです。

※電子書籍版への画像掲載はありません。


(菊間晴子)