文庫紹介
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大江健三郎文庫の経緯
2018年から2019年にかけて、これまでで最大の規模を誇る全集『大江健三郎全小説』(全15巻、講談社)が刊行されました。その際に収集された数多くの自筆原稿の取り扱いについて関係者間で協議され、最終的には大江氏のご意向を踏まえて、母校の東京大学文学部に寄託されることとなりました。
2021年1月21日、大江健三郎氏と大西克也・人文社会系研究科長(当時)とのあいだで、寄託に関する契約が締結され、株式会社講談社、株式会社文藝春秋および大江氏のご自宅に保管されていた自筆原稿・校正刷等の資料が移管されました。以降、株式会社新潮社、株式会社岩波書店、個人の方々からも資料を寄せていただき、自筆原稿・校正刷等の資料は1万8千枚に及んでいます(2023年7月現在)。
2021年7月には、『大江健三郎書誌稿』の編者としても知られる森昭夫氏からも数千点を超える図書資料をご寄贈いただいたほか、『書誌稿』のデータも提供いただきました。
2023年7月4日、大江健三郎氏の著作権継承者と納富信留研究科長とのあいだで寄託資料の利用に関する契約が締結されました。これにより、大江健三郎文庫を開設する準備が整い、2023年9月1日、東京大学大学院人文社会系研究科・文学部内に大江健三郎文庫が正式に開設する運びとなりました。
大江健三郎文庫の特徴
大江健三郎文庫は、
1)「自筆原稿デジタルアーカイブ」
2)「関連資料コレクション」
3)「書誌情報データベース」
の3つの要素から構成されます。
1)「自筆原稿デジタルアーカイブ」では、約1万8千枚の自筆原稿・校正刷などのデジタル画像が閲覧できます。その特徴は、第一に、「死者の奢り」(1957年)から『晩年様式集(イン・レイト・スタイル)』(2013年)にいたるすべての年代に渡る小説作品を収録し、かつ『沖縄ノート』(1970年)などの評論作品も収録している点にあります。第二に、自筆原稿と校正刷など、同一作品の複数の原稿があり、草稿から決定稿にいたるプロセスをたどることができます(例えば、『水死』(2009年)は、自筆原稿、初校・再校・三校の校正刷の四つのヴァージョンがあります)。第三に『言い難き嘆きもて』(2001年)、『鎖国してはならない』(同)の「編集プラン」など、原稿以外の資料も閲覧可能である点が挙げられます。
2)「関連資料コレクション」の主要な部分を構成するのは、森昭夫氏からの寄贈資料です。2021年7月、東大文学部は、『大江健三郎書誌稿』(私家版)の編者であり、大江研究者でもある森昭夫氏から、大江氏の著書、関連図書、雑誌等の寄贈を受けました。大江氏の著作の初版本、大江氏の作品が掲載されている雑誌がほぼすべて揃っているほか、研究書も網羅的に収集されています。大江氏の活動の時期は数十年に渡ることから、戦後日本文学の貴重なアーカイブとしての側面も有しています(2024年7月現在、図書は1420点、雑誌等は2425点)。
また森氏の寄贈図書以外にも、翻訳、外国語の研究書なども収集し、世界文学としての大江研究の基盤の構築にも力を注いでいます。
3)「書誌情報データベース」では、大江健三郎氏の著作、関連文献の情報を検索・閲覧できます。同データベースは、森氏から提供していただいた『大江健三郎書誌稿』のデータを基礎として、大向一輝准教授が構築しました。同データベースでは著書、初出となる雑誌の掲載情報ならびに自筆原稿に関する情報を組み合わせ、多様なアクセス方法を提供する画期的なものとなっています。また、「自筆原稿デジタルアーカイブ」と連携し、文庫内の端末ではデータベースの検索結果から直接自筆原稿を閲覧することが可能です。
上記1)と2)は大江文庫内でのみ閲覧が可能ですが、3)は一般にも公開されています。
大江健三郎文庫運営委員会(2024年度〜)
・阿部賢一(現代文芸論研究室/委員長)
・河野龍也(国文学研究室/副委員長)
・王寺賢太(フランス文学研究室)
・大向一輝(次世代人文学開発センター)
・小林真理(副研究科長)
・肥爪周二(図書委員長)
【オブザーバー】
・菊間晴子(大江文庫・助教)
・柳澤高広(副事務長)
デジタルアーカイブ・データベース担当
・大向一輝
・阿達藍留(東京大学大学院)
書誌情報整理・収集担当
・福間恵(大江文庫・事務補佐員)
・李敏知(東京大学大学院)
・橋本竜一郎(東京大学大学院)
・皆川梨花(東京大学大学院)
【2023年度以前(所属は当時のもの)】
・池島香輝(東京大学大学院)
・清水真伍(東京大学大学院)
・宮脇諒(東京大学大学院)
・郭馳洋(東アジア藝文書院(EAA)特任研究員)
・片岡真伊(東アジア藝文書院(EAA)特任研究員)