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大江健三郎の中期作品を読む(1/10オープンセミナー)
2025年2月3日
東京大学HMCオープンセミナー「大江健三郎の中期作品を読む―ポストコロニアル的視座による「内在秩序」の考察 」が、1月10日(金)17:30-19:00に開催されました。
今回は、大江健三郎を中心とした日本近代文学の研究者であり、『大江健三郎全小説8』(講談社、2019年)にも論考を寄せられたクリストファー・ラムズボトム-イシャウッド氏(東洋大学講師)にご講演いただきました。
当日はオンラインで多くの方にご参加いただき、誠にありがとうございました。
まず、文庫担当の阿部賢一准教授より、文庫所蔵の『同時代ゲーム』自筆原稿について報告がなされました。この作品の推敲段階(自筆原稿→単行本)において大幅な削除がなされていること、また自筆原稿に存在した参照資料への言及が削除されていることなどを指摘。そのような改稿の背景には、テクスト解釈の固定化を避けイメージを重層化させようとする大江の試みがあった可能性が示されました。
続いてイシャウッド氏より、大江の中期作品としての『ピンチランナー調書』(1976)、『同時代ゲーム』(1979)に関する講演がなされました。これらのテクストに、大江の科学への関心や、物理学者デヴィッド・ボームが提唱した「内在秩序」の概念との呼応を見出す視点は刺激的でした。また、大江文学の特徴としての「リミナリティ」が指摘され、それを日本国内の文脈にとどまらず、ポストコロニアル文学として読むことの意義が示されました。
当時の社会状況や科学技術・言説との関係、あるいは世界文学的な視座を意識しながら、これらの作品を分析していくことの重要性を再認識できた、貴重なご講演でした。
大江の中期作品は難解だと言われますが、実はエンターテインメント性が強い作品も多いように思います。太ゴシック体が多用されるなど、視覚的にも読者を揺さぶる仕掛けが施されているのも特徴。未読の方はぜひ一度、手に取っていただけたらと思います。
(菊間晴子)