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「大江健三郎は何度でも新しい」(『文學界』2024年3月号)

2024年216



昨年12月16日、東京大学駒場キャンパスにて、飯田橋文学会〈現代作家アーカイヴ〉特別篇「それぞれの言葉で語り合う——大江健三郎の文学をめぐって」が行われました(飯田橋文学会、東京大学ヒューマニティーズセンター、UTCP共催)。



市川沙央さん、岩川ありささん、菊間晴子によるこの鼎談の記録が、今月発売の『文學界』2024年3月号に収録されています。  

「大江健三郎は何度でも新しい」という、素敵なタイトルをつけていただきました。


『ハンチバック』(文藝春秋、2023年)で芥川賞を受賞された市川さんは、長年にわたって大江健三郎の読者であり、その作品に大きな影響を受けたといいます。

市川さんが、『ユリイカ』2023年7月臨時増刊号「総特集=大江健三郎」に寄せた追悼文「破壊と共生の王の死」は、大江文学が抱える両義性に、鋭く、そしてユーモアあふれる筆致で迫る、素晴らしいテクストでした。

また岩川さんは、『物語とトラウマ』(青土社、2022年)において、女性の声のネットワークに注目して大江の後期作品を読むという意義深い試みをなさっています。フェミニズム、クアの文脈からその作品を分析し、生きるための励ましとしての大江文学の可能性を拾い上げることに、尽力してこられた研究者です。



このお二人に、大江の「魂」をめぐる思索に関心を持って研究を進めてきた私・菊間が加わるかたちで、今回の鼎談が実現しました。

それぞれの大江作品との出会いや、なかでも特別な作品について語り合うことから始まり、『個人的な体験』(1964)、『新しい人よ眼ざめよ』(1983)、『静かな生活』(1990)、『燃えあがる緑の木』(1993-95)、『宙返り』(1999)などの作品を取り上げつつ、大江作品が内包する多様な読みの可能性を探っていく、充実の内容でした。



個人的には、お二人との対話を通して、重層的な世界を一つの体系に織り上げていった大江の小説家としての力量に、改めて気付かされたように思います。

また、障害者表象・トランスジェンダー表象と「魂」の問題とのつながりについても、新たな視点をいただきました。

このような貴重な機会を得たこと、心からありがたく思っています。



大江健三郎の執筆活動は、まさに「書き直し」の連続でした。

そして、彼が遺したたくさんの作品は、私たち読者がそれを繰り返し「読み直し」ていくことで、何度でも別様の魅力を見せてくれるように思います。

そんな「読み直し」の契機として、ぜひ本鼎談を、『文學界』誌上でお楽しみいただければ幸いです。



(菊間晴子)